[archive]コレステロールは百害あって一利なし?意外な新材料との関係とは

サイエンスライター / 執筆 : FRONTEOヘルスケア

40代にもなると、健康診断などで告げられるコレステロール値が気になってきます。ご存知の通り、コレステロールは血管内に蓄積して動脈硬化を引き起こし、脳梗塞や心筋梗塞など致命的な病気のもととなります。また、体質によっては胆嚢や胆管に蓄積して胆石となり、非常な痛みをもたらします。

コレステロールという名も、ギリシャ語で「胆汁の固体」を意味する言葉から名づけられたものです。というわけでコレステロールに対するイメージは、憎むべき健康の大敵、嫌われ者の筆頭というのが大方のところでしょう。

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しかし、コレステロールは決して役立たずの老廃物などではありません。実のところ、コレステロールは多くのはたらきを持つ、重要な生体物質なのです。

 

コレステロールの構造と性質

コレステロールの分子構造を見ると、4つの環が連結しており、いかにもがっちりと変形しにくそうな骨格です。これを化学の用語で「ステロイド骨格」と呼びます。実際にコレステロールは硬く平面的な構造なので分子同士重なり合いやすく、結晶しやすい性質があります(胆石は、この性質が裏目に出た結果です)。

コレステロールの構造式
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この硬く変形しにくい性質は、ひとつひとつの細胞を包んでいる「細胞膜」の成分として生かされています。細胞膜は、油脂に似た化合物でできた極めて薄い膜です。ここに硬いコレステロール分子が加わると、膜の流動性が下がって壊れにくくなるのです。石けん水に松脂を少し加えると、シャボン玉が割れにくくなるというのに少し似ています。

 

ホルモンの原料として

またコレステロールは、いわゆるステロイドホルモン類の原料ともなります。炭水化物や脂質、タンパク質の代謝をコントロールするコルチゾール、テストステロンなどの男性ホルモン、エストラジオールなどの女性ホルモンは、全てコレステロールから何段階かの変換を受けて作り出されます。これらのステロイドホルモンは、全て人体の健康を保つためになくてはならないものです。コレステロールはこのような重要物質であるので、体内で30段階以上の反応を積み重ねて、手間ひまかけて作り出されるのです。

 

以前は、コレステロール値の高い人は鶏卵などの高コレステロール食品(1個の鶏卵は200~240ミリグラムのコレステロールを含む)を控えるようにいわれていました。しかし近年では、食品からのコレステロールを過度に控えなくてもよいとする説が有力になっています。というのは、食品から摂るコレステロールより、体内で作り出される量のほうがはるかに多いこと、また食事からコレステロールを摂らないでいると、体内での生成量が増えてバランスをとることがわかってきたためです。体質にもよりますが、1日1~2個の卵を食べる程度なら、まず問題はないようです。

 

コレステロールから生まれた意外な新材料

実はコレステロールは、現代社会を支える重要な材料の発見にも大きく関わっています。1888年、オーストリアの植物学者フリードリッヒ・ライニッツァーは、コレステロールに手を加えた化合物を研究しているうち、おかしなことに気づきました。通常、化合物を温めていくと、融点を過ぎたところで溶けて液体になります。ところがこの化合物は、145℃でいったん溶けて白い粘り気のある液体になり、178℃で透明な液体になったのです。

 

融点が2つある物質とはいったいどういうことか――結晶研究の専門家でなかったライニッツァーは、その道のプロである物理学者オットー・レーマンに、この不思議な現象の解明を託すことにしました。

 

やがてレーマンは、この化合物が液体でありながら、結晶としての性質を示すことを発見しました。コレステロール分子の互いに重なり合いやすい性質が生み出した現象でした。後にこうした物質はいくつも見つかり、「液晶」と名づけられることになります。

 

こうして発見された液晶が、現在いかに役立っているか、改めて述べるまでもないでしょう。今あなたが(たぶん)眺めている液晶ディスプレイは、電圧をかけることで液晶の分子が重なり合い、光をさえぎる性質を利用しています。

 

現在の液晶ディスプレイには、コレステロールそのものが使われているわけではありません。とはいえ、コレステロールがなければ、液晶の発見ははるかに遅れていた可能性もあります。現代の情報社会の顔ともいうべき液晶の技術がここから産まれたと思えば、嫌われ者のコレステロールの価値も、少しは見直してやってよいのではないでしょうか。


出典:KENKO JIMAN編集部(サイエンスライター:佐藤健太郎)