[archive]コレステロールは心臓には悪いが脳には必要

薬学博士編集 / 執筆 : FRONTEOヘルスケア

糖尿病では脳内のコレステロールが減少しますが、実験的に脳内コレステロールを低下させたマウスは脳が小さく様々な異常行動を示すことが明らかになりました。糖尿病患者にアルツハイマー病が多い原因を究明する一歩になるということです。

脳内のコレステロール生産量が少なくなるように遺伝子を改変されたマウス(ハツカネズミ)は、神経損傷が顕著に増加した、という米国ジョスリン糖尿病センターの研究結果が報告されました。

脳の健康維持には、神経細胞の成長と機能維持のための大量のコレステロールが必要ですが、糖尿病患者では脳内のコレステロールが減少してしまうようです。研究チームはマウスを用いた動物実験によって、脳内のコレステロール濃度が低下すると、神経障害の症状が激増することを示しました。

今回の発見は、糖尿病患者でアルツハイマー病が増加する原因を説明する役に立つだろう、と筆頭研究者のヘザー・フェリス博士は語っています。

 

脳のコレステロール不足は行動異常を起こす

アルツハイマー病における脳内のコレステロールの役割については長い間研究されてきましたが、その理由のひとつは、脳内のコレステロールを運ぶたんぱく質の遺伝的変異が、病気の強い遺伝的リスク因子であることだ、とフェリス博士は指摘しています。

脳内のコレステロールの主要な製造元は、脳の重要な支持細胞の一種であるアストロサイトだと考えられています。今回の研究では、この細胞のコレステロール産生を調節する遺伝子をノックアウト(欠損)させたマウスをもちいて実験が行われました。

その結果は衝撃だったとフェリス博士は言います。「正常動物に比べて、ノックアウトマウスでは脳が極めて小さく、いくつもの行動異常がみられました。」

「これらのマウスは、学習能力や記憶力に問題があるだけでなく、巣作りといった日常行動にも問題があったのです」と主任研究者のC.ロナルド・カーン教授が附言しました。「そうした影響の幾つかはアルツハイマー病の症状に似ているだけでなく、さらに激しいものでした。」

 

代謝も変化し太らなくなる

奇妙なことに、このマウスは全身の代謝にも変化が見られ、より多くの炭水化物を燃焼して体重が増加しませんでした。

「私たちはまだ、糖尿病とアルツハイマー病の関連を解き明かすための研究の入口に立ったところに過ぎませんが、コレステロールがそれを媒介している可能性は高いでしょう」とフェリス博士は語っています。別の研究室からは、コレステロール濃度が高い方がむしろ病気になり易いという報告もありますが、「私の動物モデルの方が臨床像を反映していると考えています」と博士は言います。

血液中のコレステロールを下げる薬は、糖尿病やその関連疾患の患者に大きな利益をもたらします。けれども血液中のコレステロールは一般に脳内には入らず、脳内だけで独立して代謝されている、と博士は指摘します。

 

さらなる研究が必要

研究チームは、アルツハイマー病や糖尿病があり、かつ脳内のコレステロールが低下するような動物モデルの開発を目指しているといいます。またマウスの成獣において脳内コレステロールが欠乏する時の効果についても知りたいと考えているとのことです。

「本研究は、ある生物医学分野での研究が別の分野の知識に影響を及ぼす一例です」とカーン教授はコメントしています。「私たちはアルツハイマー病について考えていませんでした。単に脳内における糖尿病の影響を理解しようとしただけなのです。」


出典:『国立科学アカデミー論文集

出典:KENKO JIMAN編集部(薬学博士編集:山野秋生)