[archive]毒と薬と足がつること:脱水症状のしくみと対策

サイエンスライター / 執筆 : FRONTEOヘルスケア

誰もがなりうる熱中症

「今年の夏は去年よりも厳しい」と、ここ数年ずっと言われている気がします。今年も7月に入った途端の猛暑で、すでにげんなりという方も多いのではないでしょうか。

 

こうなると気をつけねばならないのが熱中症です。外を歩いているときやスポーツのときなどはもちろん、部屋にいる時や就寝中に発症するケースも増えており、今や誰も熱中症と無縁ではいられないようになっています。

 

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脱水症状とは

熱中症の原因は、要するに大量の発汗による脱水症状です。人間の体は約6~7割が水分といわれますが、そのうち2%を失うだけで目まいや吐き気などの症状が表れます。6%を超えると手足の震えや発熱が起き、強い疲労感を覚えます。さらに症状が進むと、重い後遺症が残るケースや、死亡につながることさえあるので、たかが熱中症などとはとてもいえません。

 

意外なようですが、脱水症状は冬にも起こります。冬は外気が乾燥しているので、呼気や皮膚などから水分が蒸散してゆき、気づかぬうちに体内の水分量が低下するのです。こうした「かくれ脱水」にも、気を配らねばなりません。

 

脱水症状は、軽いうちはなかなか気づきません。高齢者は暑さへの対応力が低下するため脱水症状に陥りやすいのですが、本人が気づいていないケースがよくあります。また、言葉で自分の体調を説明できない乳幼児などは、周囲が気を配るほかありません。

 

足がつる原因は電解質不足

脱水症状で問題になるのは、水分量の低下だけではありません。汗で水分と一緒に流れ出す、ナトリウムやカリウムなど「電解質」の不足も大きな問題です。たとえば運動をした後などに、「足がつった」という経験は誰でもあると思います。これは単純に、筋肉の疲労が原因なのかと筆者は思っていたのですが、実はその多くは電解質の不足が原因なのだそうです。

 

ナトリウムやカリウム、カルシウムなどのイオン(いわゆる電解質)は、神経の情報伝達に重要な役目を果たします。大量の発汗によってこれらが失われると、情報の伝達が妨げられ、不必要な筋肉の収縮が起こってしまいます。これが「足がつる」原因です。

 

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というわけで、足がつり始めるのは危険な兆候ですので、軽視せず対策すべきです。軽度の発汗であれば水だけでもよいでしょうが、かなり汗をかいているような場合は、電解質の補給のためスポーツドリンク、場合によって経口補水液の利用なども必要になります。

 

電解質と毒

かくのごとく、電解質は重要です。細胞にはナトリウムやカリウムが出入りする専用の入り口があり、細胞内の電解質濃度を適切にコントロールしています。これを狂わせるものは、毒としてはたらきます。

 

有名なのはフグ毒テトロドトキシンです。これは、神経細胞などに存在するナトリウムの出入り口(ナトリウムチャネル)に結合して、神経の情報伝達をブロックしてしまいます。フグ毒に当たると体が麻痺して動かなくなるのは、こうした理由です。

 

ある種の藻類が作るシガテラと呼ばれる毒は、筋肉痛やめまい、脱力の他、ちょっと冷たいものにさわるとドライアイスに触れたかのような感触を受ける、「ドライアイスセンセーション」という特徴的な症状で知られています。この毒はやはりナトリウムチャネルに作用しますが、テトロドトキシンとは逆にナトリウムの透過性を上げてしまうと考えられています。

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イオンチャネルと医薬

このように、イオンチャネルに作用する物質が毒になるということは、うまく使えば薬にもなるということです。たとえば局所麻酔に用いられるリドカインという薬は、やはりナトリウムチャネルをふさぐことにより、痛みの情報が神経を伝わるのを防ぐ仕組みです。

 

また、降圧剤として一般的なカルシウム拮抗剤と呼ばれる医薬群は、細胞のカルシウムチャネルをふさぐことで血管を拡張し、血圧を下げる薬です。これもまた、電解質による情報伝達を遮断することで効果を発揮しているわけで、「毒と薬は紙一重」の例といえるでしょう。

 

これら毒や薬はみな、「足がつる」という現象と、電解質というキーワードを通じてつながっているわけです。電解質補給の大事さを噛みしめつつ、暑い夏を乗り切っていただきたいと思います。


出典:KENKO JIMAN編集部(サイエンスライター:佐藤健太郎)