[archive]がんとは:発生・転移のしくみや種類などをわかりやすく解説

医学博士編集 / 執筆 : FRONTEOヘルスケア

人間の体は数十兆個の細胞から成っています。「がん」はそれらのほぼすべての細胞で発生する可能性があります。がんとはいったい何なのでしょうか。米国国立がん研究所(NCI)のホームページに、簡潔で分かりやすい解説が公開されています。本記事ではその内容をご紹介します。

 

「がん」と「腫瘍」の違い

人体の細胞は通常、臓器や組織などの必要に応じて増殖・分裂し、新たな細胞を作ります。また、老化したり傷ついたりした細胞は死滅し、新たな細胞に入れ替わります。

ところが細胞分裂が正常に機能しなくなって、例えば新たな細胞が必要とされないときに作られる場合があります。あるいは、細胞が異常になって死滅すべきときに生き延びるようになる場合もあります。こうして生じた異常な細胞は、際限なく分裂し、「腫瘍」と呼ばれる増殖物になる可能性があります。

腫瘍には、良性のものと悪性のものがあります。

良性腫瘍は悪性腫瘍と異なり、切除すれば通常は再増殖せず、浸潤もしません。浸潤とは、周辺組織を壊しながら入り込み、広がっていくことです。ただし、良性でも脳腫瘍の場合には、他の部位とは異なり、場合によっては生命に危険を及ぼします。

一方で、がん性腫瘍は悪性腫瘍です。つまり、切除しても再増殖や浸潤の可能性があります。また、がん性腫瘍が大きくなるにつれ、一部のがん細胞は遊離して血管やリンパに入り込み、流れに乗ってもとの腫瘍から離れた部位に運ばれます。そして、体内の新たな部位で腫瘍になります。

多くのがんは、固形腫瘍という組織の塊になりますが、白血病などの血液がんは通常、固形腫瘍にはなりません。あらゆる種類のがんは、体の細胞の一部が際限なく分裂し始め、周辺組織へ広がります。このように「がん」という病名は、固形や血液などの形状に関係なく、一連の悪性腫瘍に関連した病気の総称なのです。

 

がん細胞の特徴

無秩序に増殖し、浸潤するがん細胞は、正常細胞と多くの点で異なります。

重要な違いの1つは、がん細胞は正常細胞と比較して「未分化」であることです。正常細胞は、成熟してそれぞれの組織に応じた特定の働きを持つ細胞タイプになります。これを「分化」といいます。一方で、がん細胞は成熟も分化もしません。未分化、つまり、まだ役割が決まっていない状態の細胞は、細胞分裂を繰り返します。

また、がん細胞は、正常細胞に備わっている、細胞分裂の停止やアポトーシスの開始を伝えるシグナルを無視することがあります。アポトーシスとは、「プログラム細胞死」とも呼ばれ、人体が不要な細胞を除去するために利用する、細胞の自殺機能です。こうした理由により、がん細胞は正常細胞と異なり、際限なく分裂し続けるのです。

がん細胞は、分裂を続けるだけでなく、生き残りやすいように周辺の環境をも変えていきます。たとえば、腫瘍の増殖に必要な酸素や栄養を腫瘍に供給する血管を新たに形成するべく、周辺の正常細胞を誘導することがあります。こうして作られた血管は、腫瘍に酸素や栄養を供給するためだけでなく、腫瘍から老廃物を排出するためにも使われます。

また、がん細胞は、免疫系から逃れることもあります。免疫系とは、感染症や他の病気から体を防御するために体内に備わった仕組みのことで、通常は、障害を受けた細胞や異常細胞は人体から除去されます。ところが一部のがん細胞は免疫系から逃れ、生き残るのです。

さらに、がん細胞は生存・増殖のために免疫系を利用することさえあります。具体的には、免疫反応が暴走しないように抑える役割の免疫細胞を利用して、がん細胞が殺傷されないように援助させてしまうのです。

 

がんは遺伝子の変異により発生する

がんは、主に細胞の増殖と分裂を制御する遺伝子の変異により引き起こされる「遺伝子疾患」です。

がんの原因となる遺伝子変異は、細胞分裂の際に誤りとして起きたり、一部の環境(たばこの煙に含まれる化学物質や、太陽からの紫外線など)にさらされた結果として起きたりと、さまざまな状況で起こり得ます。また、がんの原因となる遺伝子変異は、両親から受け継がれる場合もあります。

がんの遺伝子変異の組み合わせは、人によって異なります。さらに、1人の体内に生じた1つの腫瘍の中だけ見ても、さまざまな細胞にさまざまな遺伝子変異が存在していることがあります。これは、がん細胞が増殖を続けるにつれて、さらに遺伝子変異を重ねていくからです。こうした理由により、正常細胞と比較して、がん細胞にはDNA変異などの遺伝子変異が多数存在します。こうした変異は、がんの原因ではなく、がんがもたらしたものであるため、変異の一部はがんに関連しないと言えます。

 

がんの「ドライバー」とは

がんを発生させる原因は、主に「がん原遺伝子」「がん抑制遺伝子」「DNA修復遺伝子」と呼ばれる3種類の主要な遺伝子の働きに影響を与える変異です。こうした変異は、がんの「ドライバー」と呼ばれます。

 

「がん原遺伝子」は、正常細胞の増殖・分裂に関わっている遺伝子の総称です。何らかの原因により、がん原遺伝子が変異したり、通常時よりも活性化されたりすると、「がん遺伝子」になります。がん遺伝子により、細胞は、死滅すべきときに増殖して生き延びるようになります。がん原遺伝子は、しばしば、車の「アクセル」に例えられます。アクセルが壊れて踏みっぱなしになった車が暴走するように、がん原遺伝子が変異などで異常になると細胞分裂が止まらないというイメージです。

 

「がん抑制遺伝子(上図では緑色)も、細胞の増殖・分裂に関わっており、こちらは車の「ブレーキ」に例えられます。がん抑制遺伝子に何らかの変異が生じた細胞は、ブレーキが効かなくなり、増え続けていきます。

 

「DNA修復遺伝子(上図では紫色)は、損傷したDNAの修復に関わっています。DNAは、活性酸素、紫外線、化学物質などにより日常的に傷つけられていますが、通常はこの遺伝子が傷ついた箇所を修復しているため、がんなどの病気にならずに済んでいます。そのため、DNA修復遺伝子に変異が生じると、修復のミスにより、細胞のがん化につながる遺伝子変異を起こす場合があります。

医学が進み、がんの原因となる遺伝子変異について理解が深まるにつれて、一部特定の遺伝子変異が多くのがん種に共通かつ高頻度に発生していることが明らかになりました。このことから、がんは体内での「発生部位」や、顕微鏡で調べた「がん細胞の形状」だけではなく、「がん化を促進するとされる遺伝子変異の種類」によっても特徴づけられます。

 

「転移」と「転移がん」について

がん細胞が最初に発生した部位から遊離し、血液やリンパ系を通り移動して体内の他の部位に広がる過程を「転移」と言います。そして、広がった他の部位で新たに作られたがんを「転移がん」と言います。

転移がんは、原発がん(元のがん)と同一の種類のがんとみなされ、名称や種類は原発がんのものとなります。つまり、例えば乳がんが肺に転移した場合には、肺がんではなく「転移性乳がん」と呼びます。転移がん細胞は、顕微鏡で観察すると通常、原発がん細胞と特徴などが同じように見えます。また、転移がん細胞と原発がん細胞は通常、「染色体変異」と呼ばれる遺伝情報に影響する異常のパターンなど、一部の分子生物学的特性も共通しています。

 

転移がんは、体の機能に大きなダメージを与える可能性があり、がんで亡くなる人の多くは転移がんが死亡理由となります。転移がん治療の主な目的は通例、転移がんの増殖を抑えたり、転移がん由来の症状を緩和したりすることですが、こうした治療は、一部の転移がん患者では寿命の延長につながります。

 

がんではない組織の変化

人体の組織に起こるすべての変化ががんというわけではありません。以下に示すような一部の組織変化は、がんではありませんが治療しないとがんになる場合があります。

 

<過形成>

過形成は、組織内の細胞が通常時よりも速く分裂し、細胞が過剰に増えて生じたものです。過形成は、数が増えているものの、細胞や組織を顕微鏡で観察すると正常に見えます。過形成が引き起こされる要因として、慢性的な刺激や病気などが挙げられています。

<異形成>

過形成が悪化した状態が異形成です。異形成では細胞の過剰増殖が認められるうえに、顕微鏡下において、細胞や組織の形態に異常が認められます。一般に、異形成にこうした異常が多く見られるほど、がんになる可能性が高くなります。そのため、一部の異形成では監視や治療が必要になります。異形成の一例は「異形成母斑」です。これは、皮膚に生じるほくろの異常で、大部分の異形成母斑はがんにはなりませんが、一部は「黒色腫(メラノーマ)」というがんになることがあります。

<非浸潤性がん>

さらに悪化した状態が非浸潤性がん(carcinoma in situ)です。非浸潤性がんはがんと呼ばれる場合もありますが、厳密にはがんではありません。その理由は、非浸潤性がんは他のがん細胞のように周辺組織に浸潤せず、異常細胞が原発部位から転移しないからです。しかし、一部はがんになる場合があるため、通常は治療の対象となります。

 

がんの種類

がんの種類は通常、がんが生じる器官や組織によって名前がつけられています。例えば肺がんは肺の細胞に発生し、脳腫瘍は脳の細胞に発生します。また、がんは、がんになる細胞の種類(上皮細胞、扁平上皮細胞など)によっても表されます。

がん腫(carcinoma)

がん腫は、最も多く見られるがんで、上皮細胞と呼ばれる、人体の内外表面を覆う細胞(臓器の内壁や皮膚などの細胞)から生じたものを指します。上皮細胞の種類はさまざまで、発生するがん腫には「腺がん」「基底細胞がん」「扁平上皮がん」「移行上皮がん」など、特定の名前がつけられています。

 

種類 特徴
腺がん 液体や粘液などを産生する上皮細胞に生じるがん 乳がん、大腸がん、前立腺がん
基底細胞がん 皮膚の外層である表皮の下層(基底層)に生じるがん 皮膚がん
扁平上皮がん
(類表皮がん)
皮膚の外表面のすぐ下や、多くの器官の内側を覆っている扁平上皮細胞に生じるがん 胃がん、大腸がん、肺がん
移行上皮がん 膀胱、尿管、腎臓の一部(腎盤)などに存在する移行上皮(尿路上皮)に生じるがん

膀胱がん、尿管がん、腎がん

 

肉腫(sarcoma)

肉腫は、骨と軟部組織に生じるがんです。軟部組織とは、筋肉・脂肪・血管・リンパ管・神経・関節周辺の組織(腱、靭帯など)などです。骨のがんのうち最も多いのが骨肉腫です。軟部肉腫のうちで多いのは、平滑筋肉腫、カポジ肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、隆起性皮膚線維肉腫です。

 

白血病(leukemia)

骨髄内の造血組織に生じるがんを白血病と言います。白血病は固形腫瘍にはなりませんが、多数の異常な白血球(白血病細胞や白血病性芽球)が血液や骨髄で増殖し、正常な血球を押しのけます。こうして正常な血球の割合が低くなると、酸素を組織に取り込んだり、出血を止めたり、感染症に対抗するのが困難になる場合があります。白血病は、悪くなる速さ(急性か慢性)、および生じた血球の種類(リンパ芽球性か骨髄性)に基づいて、主に4種類に分類されます。

リンパ腫(lymphoma)

リンパ腫は、リンパ球(T細胞やB細胞)に生じるがんです。リンパ球は病気に対抗して体を守る免疫細胞の一種です。リンパ腫になると、異常なリンパ球はリンパ節やリンパ管だけでなく、人体の他の器官でも増殖します。リンパ腫は主に「ホジキンリンパ腫」「非ホジキンリンパ腫」の2種類に分類されます。

 

ホジキンリンパ腫 通常B細胞に由来する「リード・シュテルンベルグ細胞」と呼ばれる異常リンパ球が認められるリンパ腫
非ホジキンリンパ腫 リンパ球に生じるがんの大きなグループで、急性のものも慢性のものもあり、B細胞由来のものもT細胞由来のものもある

 

多発性骨髄腫

多発性骨髄腫は、「形質細胞」という種類の免疫細胞に生じるがんです。別名「形質細胞骨髄腫」「カーラー病」とも呼ばれ、異常な形質細胞となった骨髄腫細胞が骨髄で増殖し、全身にわたる骨の腫瘍になります。

黒色腫(メラノーマ)

黒色腫は、皮膚に色調を与える色素であるメラニンを産生する「メラノサイト」に生じるがんです。大部分の黒色腫は皮膚に生じますが、一部は目など、色素を持つ他の組織で生じる場合もあります。

脳腫瘍・脊髄腫瘍

脳腫瘍と脊髄腫瘍は、腫瘍が生じた細胞の種類や、腫瘍が最初に生じた部位に基づいて、さまざまな種類が存在します。例えば、星状細胞(アストロサイト)という、神経細胞を正常に保つ役割を担う星状の脳細胞に生じた腫瘍は「星状膠細胞系腫瘍(せいじょうこうさいぼうけいしゅよう)」と呼ばれます。脳腫瘍には、良性(非がん性)のものもあれば、悪性(がん性)のものもあります。

その他の腫瘍

・胚細胞腫瘍

胚細胞腫瘍は、精子や卵子になる細胞(原生殖細胞)に生じる腫瘍の一種です。胚細胞腫瘍は、卵巣や精巣に最も多く発生しますが、体のほとんどの部位で生じる可能性があります。良性のものもあれば、悪性のものもあります。

・神経内分泌腫瘍

神経内分泌腫瘍は、神経系から出された指令(シグナル)に応じて、血液中にホルモンを放出する細胞に生じます。この腫瘍は、過剰量のホルモンを産生するなど、多くの症状を引き起こすことがあります。良性のものもあれば、悪性のものもあります。

・カルチノイド腫瘍

カルチノイド腫瘍は、神経内分泌腫瘍の1種です。進行が遅い腫瘍で、通常は消化器系(直腸や小腸)に存在します。カルチノイド腫瘍は、肝臓などに転移することがあります。また、セロトニンやプロスタグランジンなどの血管に作用する物質を分泌し、下痢や血圧低下などを起こす「カルチノイド症候群」を引き起こすことがあります。

がんは100種類以上存在します。本記事では、特定の種類の細胞に発生する一部のがんの種類を紹介しました。


参考文献
「がんとは何でしょうか?」 海外がん医療情報リファレンス
“What Is Cancer?” National Cancer Institute


出典:KENKO JIMAN編集部(医学博士編集:二瓶秋子)