[archive]肥満はなぜ体に悪いか:脂肪細胞の功罪

サイエンスライター / 執筆 : FRONTEOヘルスケア

見た目にも健康にも悪いと知りつつ、なかなか抜け出せないのが肥満というものです。筆者も、30歳のころから比べて15kg以上太ってしまいましたが、どうにも元に戻りません。というわけで今回は、反省と自戒の念をこめて、肥満について書いてみることとします。

 

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生活習慣病の悪玉といえば肥満

肥満が健康によくないことは、誰でも知っていることです。しかし実際のところ、脂肪のつき過ぎはどうして体に悪影響があるのでしょうか?ひとつには、太った分だけ毛細血管が増えることにより、心臓に負担がかかってしまうことが挙げられます。また、体重を支える膝や腰などの関節にダメージが及ぶことも、もちろん重要な要因です。

 

しかし何より、肥満が危険視される原因は、高血圧や糖尿病、動脈硬化などの生活習慣病にかかりやすくなることでしょう。これらがどう結びついているのか、最近になって研究が進み、いろいろなことが解明されつつあります。

 

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脂肪は、なぜ、どのようにたまるのでしょうか。脂肪は分子レベルで見ると炭素と水素の含有量が多く、石油などに近い構造です。このため、燃やすと高いエネルギーを放出します。生物が余剰のエネルギーを貯蔵するために、ぴったりの構造であるといえます。

 

貯蔵だけではない、脂肪細胞の役割

というわけで、食物などから得た余分なエネルギーは脂肪の形に変えられ、脂肪細胞に貯め込まれます。顕微鏡で見ると、脂肪細胞は最大で直径130マイクロメートル(約8分の1ミリメートル)程度の球体をしています。これら脂肪細胞は、皮膚の下や内臓などに集まり、脂肪組織を作ります。脂肪組織はエネルギーの貯蔵の他、熱を遮断することによる体温維持、衝撃の吸収による臓器の保護といった役割をも果たしています。

 

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しかし最近になり、脂肪細胞は単なる脂肪の貯蔵庫ではないことがわかってきました。脂肪細胞は積極的にさまざまな伝達物質を放出し、体調の維持に関わっているのです。そしてそれが行き過ぎることで、各種の生活習慣病に結びついていると考えられます。

 

たとえば脂肪細胞は、アンジオテンシンⅡという物質を放出します。この物質は血管を収縮させ、血圧を上げる作用があります。脂肪細胞は、自らが生きていくために必要な酸素などを取り入れるため、血管にアンジオテンシンⅡを送り込んで、血液を引き入れようとするのです。

 

これ自体は正常な過程ですが、脂肪細胞が肥大化し、数が増えると、放出されるアンジオテンシンⅡの量も全体として増え、高血圧が引き起こされてしまうというわけです。降圧剤の代表的なものは、このアンジオテンシンⅡを作らせないようにするか、そのはたらきを抑え込むことで、血圧を下げる仕組みです。

 

脂肪細胞が高血圧に作用するもうひとつの理由

また脂肪細胞は、レプチンという物質も作り出します。これは満腹中枢に作用し、「今はお腹いっぱいである」という信号を送ります。また、交感神経の活動を活発にさせて、エネルギー消費を促す作用も持ちます。要するに、脂肪が貯まり始めると「今はもう食べるな、脂肪を消費しろ」と自らシグナルを発するわけで、実にうまく出来ているものです。

 

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ならばなぜ肥満になるのかと思うところですが、レプチンの効き目が弱っている人がいるのが、原因のひとつのようです。というわけで、病的な肥満状態の人にレプチンを体外から投与しても、やせ薬としてははたらきません。

 

またレプチンの作用は、体にプラスのことばかりではありません。レプチンの放出によって交感神経が活発になると、やはり血圧も上昇する方に向かうのです。肥満と高血圧に密接な関連があるのは、アンジオテンシンⅡとレプチンの2方面からの作用によるものなのです。

 

細胞は情報伝達物質(サイトカイン)を送りあっている

脂肪細胞が放出するのはそれだけではありません。腫瘍壊死因子(TNFα)や単球走化性因子(MCP-1)といった、ややこしい名前の物質も作り出されます。どうもこの物質たちが、糖尿病の原因を作っているらしいのです。血糖値が上がるとインスリンが放出され、「血液から糖分を減らせ」というシグナルが送られるのですが、TNFαなどはこのインスリンの効きを悪くしてしまうと考えられています。

 

このように、脂肪細胞の作り出す物質群は、人体にさまざまな悪影響を及ぼします。だからこそ肥満は怖い――わけなのですが、だからといって極度に脂肪を落とすのも、これはこれで考えものです。たとえば、脂肪を貯め込んだ脂肪細胞は、女性ホルモンを作り出すはたらきがあります。やせ過ぎた女性に生理不順が起こることがあるのは、脂肪細胞からの女性ホルモンが少なくなることが原因なのです。

 

健康に関連することがらを調べていると、多くの場合で、極端に走りすぎない「中庸」が大切なのだなと思わされます。脂肪もまた、貯め込み過ぎでも削り過ぎでもなく、適度なレベルに保つことが一番であるようです。


出典:KENKO JIMAN編集部(サイエンスライター:佐藤健太郎)