[archive]免疫力アップとは何なのか:過ぎたるは及ばざるがごとし

サイエンスライター / 執筆 : FRONTEOヘルスケア

我々は無数の細菌やウイルスに囲まれて暮らしています。手のひらには平均で1平方センチあたり100万もの細菌がいるといわれますし、1ミリリットルの海水には億単位のウイルスが浮かんでいるともいわれます。これらは人体に対して無害なものがほとんどですが、危険な感染症を引き起こすものも少なくありません。

 

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これだけ膨大な病原体にさらされていながら、我々がさほど病気にかからずに済んでいるのは、免疫系が働いてこれらの攻撃をはね返してくれているからです。近年の研究では、細菌などの単細胞生物でさえも、ウイルス感染から身を守るため、免疫と呼べるシステムを持っているということです。生命進化の極めて早い段階から、生命はなくてはならない武器として免疫系を開発していたわけです。

 

免疫が撃退してくれるのは、病原菌など体外からの敵だけではありません。人間の体の中では、毎日数千個のがん細胞が生成していますが、そのほとんどを免疫系が芽のうちに摘んでくれているので、大事に至らずに済んでいます。

 

ということで、免疫の力を上昇させることができるなら、いろいろな病気にかかりにくくなるはず――と、単純には考えられます。このため「免疫力アップ」を謳う食品や書籍がたくさん発売されていますが、これらは、どの程度信用してよいものなのでしょうか?

 

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「免疫力○%」って?

よく見かけるのが、「✕✕をすれば、免疫力○%アップ」といったタイプの広告です。こうして具体的な数字で示されると、いかにも何か科学的な方法できちんと測定された、信頼のおけるデータであるかのような印象を受けてしまいます。

 

しかし、免疫力というのは、そのように数字で表せるたぐいのものではないのです。実は、免疫系は単一のシステムではありません。異物を判別して食細胞がこれを食べて分解してしまう「自然免疫」や、感染した病原体を記憶し、抗体やリンパ球などによってこれを退治する「獲得免疫」が含まれ、さらにホルモンなどを分泌する内分泌系、からだのはたらきを調整する交感神経系などが関与します。

 

いってみれば免疫力という言葉は、コミュニケーション能力や生活能力などのさまざまな要素を総合した「人間力」というような言い回しに近いといえます。数字ではっきりはじき出せるものではなく、論文などに用いられる学術用語でもありません。にもかかわらず「○%アップ」ともっともらしく謳っていたら、少々眉につばをつけて聞いたほうがよさそうです。

 

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体温を上げると免疫力も上がる?

免疫力強化の方法として、「体温を上げるとよい」などともよくいわれます。ひとつには、ウイルスの増殖には35℃以下の温度が適しており、37℃以上になると増殖が止まってしまうため、こうした言い方がなされたのかもしれません。このため風邪を引いた時には、解熱剤でむやみに熱を下げるのは得策ではありません。

 

しかし、入浴などによって外部から体を温めても、ウイルスに強くなるわけではありません。体の奥深くの体温(深部体温)は厳密にコントロールされており、外温の影響をほとんど受けないのです。

 

風呂などで体を温めることは、血液の循環をよくするなどの効果はありますので、もちろん悪いことではありません。ただ、「これでインフルエンザにかからない!」などと謳ってしまうのは、かなりの誇大広告と言わざるを得ません。

 

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「免疫力を高める食事」って?

前述のように、「免疫力」という言葉自体がぼんやりとした概念であり、これによって免疫力が向上した、と測定できるようなものではありません。したがって、免疫力を高める食事、という言い回しも単純には信用できないと考えられます。免疫力アップによってインフルエンザなどに効果ありとする飲料に対し、虚偽・誇大広告として消費者庁から改善要請が出されたケースもありました。

 

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あえていうなら、免疫細胞が増殖する際に必要なビタミンやミネラルをしっかり摂取することが、免疫力を高める――というより保つ食事ということになります。また、ストレスをためないこと、睡眠をしっかりとることも免疫力を保つために重要です。

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「免疫力を高める」のはいいことか?

そもそも、免疫力を向上させることが本当にいいことなのでしょうか?免疫系は体の防衛システムとして極めて重要ではありますが、時に病気を引き起こしてしまうこともあります。花粉症などアレルギー性疾患もそうですし、リウマチや潰瘍性大腸炎などの難病も、免疫が自分の体を攻撃してしまうことが原因です。単純に「免疫力アップ」=「病気にならない」などという図式は成り立ちません。

 

本当に「免疫力を高める」という言葉を使えるとすれば、ワクチンの摂取によって体内に抗体を作り、感染症を予防することくらいでしょう。そして、バランス良く食べて適度に運動をしてしっかり眠るという、ごく当たり前の基本を守ることが、結局は一番の「免疫力」につながるといえそうです。


出典:KENKO JIMAN編集部(サイエンスライター:佐藤健太郎)